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              再生の時間(※火黒) 







        示し合わせたわけでもないのにもう何度目か。
        最寄のファーストフード店で普段通り、黒子はご贔屓のバニラシェイクを口に含んでいる。
        珍しく静かな店内で、窓際の人通りを眺め文庫本を手にしていると
        山盛りのハンバーガーをトレイに乗せた火神が同じテーブルにやってくる。
        けして待ち合わせたわけではないのに、放課後の日暮れ時、数分違わず、
        黒子がシェイクに口を付けた少し後のタイミングでやってくるのだ。
        火神としては誰もいないと認識したうえで席を選んでいるつもりらしいが
        着席と同時にいつも、その場の黒子の存在に気付くのである。
        「・・・・・言っておくが、オマエを探して座ってるつもり、これっぽっちもねーからな。」
        黒子の存在感の薄さゆえに繰り返される相席。
        火神は黒子の存在に気付いても、驚くことなく対面座席に腰を落ち着けるようになっていた。
        「ボクも別に気にしてないです。」
        そっけなく言い放った火神が、空席に移ることもせず自分の前に座るのは
        煩わしさを伴う慣れからくるものだろうか。それとも少しは親しみを感じてくれているんだろうか。
        いずれにせよその物言いが憎めなくて、黒子は人知れず愉快な気分を味わう。

        火神と相席し、バニラシェイクを口に含んでいる。今日でもう何度目か。
        一口、舌の上でとろけては、運動後のけだるい身体に甘さが染みこむうちに、
        2人の間に挟まれたトレイ上のハンバーガーは、2個、3個と次々に火神の口内へ放り込まれて行く。
        恵まれた体格を動かすのには、それ相応の燃料が必要になるのだろう。
        口に運ぶ動作は乱暴で、けして行儀が良いわけではないけれど、
        食べ零すことなく、カスも残さず、20個を越える量を平らげていく。
        目の前で見る火神の大食いは下品でなく、見るも鮮やかで興味深いと、黒子は感じていた。

        「何見てんだ。今日は腹減ってるから分けてやんねーぞ。」
        黙々と半分以上を食べ終えて、沈黙を破ったのは火神だ。
        「いえ、人間観察してるだけです。気にしないでください。」
        視線を火神の口元から外さず、黒子は対面している長身を見上げたまま答える。
        「そーゆーのは普通、本人に気付かれずにやるもんだろーが。ガン見してんじゃねーぞコラ。」
        「それだけ食べて、夕食も入るんですか?」
        「あ?余裕だろ?」
        何寝ぼけたこと言ってんだ、と火神は一瞬だけ黒子を睨み、変わらぬハイペースで食事を続けていく。
        火神の釣り目がちな目は、わずかに細められただけで一層、迫力が増す。
        投げやりに他所へ向けられる視線でさえ、受け取った相手に威圧感を与えてしまうため
        同級生のみならず上級生にさえその存在感を広く知られていた。
        190cmという目立つ体躯、短く刈られて跳ねる毛先、物怖じしない態度、いつだって強気な表情と。
        創立2年の誠凛高校、生徒数の少ない中で、まるで腫れ物のように遠巻きに自分に集まる視線に気付いて
        なお積極的に関わりあおうとしてこない日本人の気質に困惑しているようであった。
        眼光は常に鋭く、ギラギラとした生命力を持て余しているようで
        黒子は、やり過ごす事を知らない彼の愚直さ、未完成の器に、内心惹かれるところがあった。

        「そういやオマエさ、女子みたいな名前で嫌に思ったことねーのか?」
        サイズの合わない椅子を傾け、軽く天井を仰ぐような姿勢で、火神は尋ねた。
        「・・・・・ボクの名前がですか?そんなこと言われたのは初めてです。」
        「は?だってよ・・・・。」
        「ボクとしてはよくもまあ、いかつい名前を付けてくれたもんだと思ってたんですけど。」
        「・・・・・黒”子”って、普通女に付く漢字だろ?」

        そこまで言われてようやく、苗字の事だと分かった。
        「日本の女って、名前に子が付くんだろ?カントクだって似たようなもんだし。」
        火神は至極、真面目に眉をひそめて、高い位置から目線を投げかけてくる。
        「・・・・・火神くんは帰国子女でしたっけ。」
        火神の視線を直に感じながら、しばし考える。
        廃れたとは言え古くから女性名によく使われた型である。言われてみればそう勘違いされてもおかしくない字面だ。

        「その発言はオモロイです。」
        「いや、お前に面白がられてもうれしかねーし。」
        「ですが最近は、女性に子と名付けるのは珍しくなってるみたいです。」
        「そうかよ。変なこと言ったな。」
        「いえ、新鮮です。」

        「だいたいその、キコクシジョ?ってのも変な日本語だよな。なんで女なんだよ。」
        「どういう意味ですか。」
        「男も女もみんなひっくるめて、帰国子女って言うんだろ?男なら子男だろーが、普通に考えて。」
        「帰国子女の、子は息子で、女は娘を表してます。なにも間違ってないです。」
        正答を伝えた先の火神は、一瞬だけ頬を固まらせ驚いた様子を見せた。
        飲み込める頃合まで口内を噛み砕いてもまだ、しばらく咀嚼していた。
        「火神くん。」
        「・・・・んだよ。」
        「やっぱオモロイです。」
        「ああ!?バカにしてんのかテメー!」
        机を軽く殴っただけで、おおげさな音を立てて揺れるプラスチックトレイ。力を入れすぎたらしい。
        客が増え混雑を迎える店内で、思った以上に響いた声に 振り向く人々。
        注目を浴びた当の火神すら驚いた様子で慌てて居直る。
        けして目立たず、集団に埋もれるよう、意識せずともそう過ごすことが当たり前になっている黒子と違い、
        中学2年時に帰国した彼にとって、何もかもスモールサイズの小さな島国はまだまだ、居心地が悪いのかもしれない。

        肩をすくめてもなお、最後の1つを、惜しげもなく口に運んだ火神は、大量の包装紙を一つに丸めてトレイの上に放る。
        瞬く間に咀嚼して、口内を空にし、すぐに黒子に向き直る。
        「オラ、いつまで、んなクソ甘いもん飲んでんだ。」
        何事も無かったように夕刻の喧騒を取り戻した店内で、その軽口は幾分和らいだものとなっていた。
        食事の速度は人それぞれ自由だと思うが、黒子をせかす火神の言外には、共に外へ出ようとする意思があるらしい。
        「まだだいぶ残ってます。」
        「どんだけゆっくり味わってんだよ。」
        先に行ってくれていい、という返答は出なかった。
        火神から、付いて来い、という台詞が出るはずもなかったがトレイを片付けた彼が振り返るのを見て、おのずと立ち上がる。
        誰かと共に歩いていくこと、黒子にとってはそれがどれほど重要な動作なのか、火神は知らない。

        店内を出ると、涼しい夕風が頬に当たる。
        ひんやりとした心地の良い気温の中、飲みかけのシェイクを片手に
        街灯の点った歩道を大股で進んでいく火神の背を追いかけながら歩いて。
        当然のようにこうしている今について物思う。
        言葉は粗雑だが、火神は出会った当初の頃のような居心地の悪い様子を見せなくなった。
        誰かに見付かったら仲いいと思われんだろうが、と必死に黒子と距離を置こうとしていた火神は、もういない。
        ハンバーガー1個分、の実力を認めてもらえている。

        残りのシェイクを一息で吸い上げながら、前を歩く火神の背の向こうの、すっかり陽の落ちた夜空を見上げる。
        その真正面に満月が照っていて、手前にある街灯と相まって火神を照らす。
        火神の後ろに出来た大きな影に被さり、黒子は長く伸びた色濃い影の中にいた。
        その状況に、いつか誓った約束がふと浮かぶ。
        主役という光の影として、火神を日本一にする。

        今のボクは、ハンバーガー何個分ですか。
        深く息を吸い込み、今一度問うてみたい質問は、声にはならなかった。

        「あ?なんか言ったか?」
        心の中での無言の問いに、偶然にもぐるりと大きな動作で振り返った火神をまっすぐに見上げる。
        その背後から降り注ぐ月光と街灯が真正面になって、なお眩しかった。
        逆光の中、訝しげな顔をするその人を確かめてから、黒子は頭を少しだけ下げた。
        「いいえ、なんでもありません。」
        「オマエ放っとくと、いるのかいないのかわかんねぇし。」
        足を止めた火神は、すぐにはぐれる黒子に慣れた様子で、息を吐き軽く笑っていた。

        「・・・・・頑張ります。」
        「存在を頑張んじゃねぇ!」

        意味を取り違えた火神の言葉を否定せず、先に立ち止まっていた火神の隣に並び
        黒子は再び前を向いて歩き出した。











       初・火黒!でも火黒にみえないふしぎ!慣れないことはするもんじゃないと思いました。
          火黒はとりあえず黒子が火神にベタぼれであればまず間違いないはず。