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              夏の潜熱(※緑黒) 







        巧妙に隠されているようでいて、詰めが甘い。
        現場を押さえてはいないが、秘められた何か、覗き見てしまったような感覚。
        ほんの些細な出来事が、日に日に折り重なり、緑間の行動に対する疑惑は大きくなっていく。

        別の日の夕暮れ時、旅館から目と鼻の先の砂浜、潮風の匂いにつられて
        高尾が海辺へ向かって歩道を歩いていたところ
        ふと脇道にそれた体育館通路の付近に、一瞬、動く人影を見た気がした。
        遠目から人物までは判らなかったが、背格好からしておそらく自分より背高なバスケ部員だ。
        が、その時ちょうど通りかかったガードレール越しの車の
        ヘッドライトの眩しさに目を細めてしまい、高尾が再び目を向けた時には
        影は夕闇に消えてしまっていた。

        かと思えば、夏草の生い茂る体育館の裏。
        ひっそりとしたその場所を、練習時間の合間に散策してみれば
        脇のくずかごには汁粉ドリンクとスポーツ飲料の空き缶が、2本だけ仲良く入っていたりした。

        あれから、誠凛の大部屋の入り口が開けられてるところに
        出くわす機会はなかった。



        海辺のロードワーク中、防波堤の下には砂浜で練習している誠凛チームが見渡せる。
        初日以外、合同練習は組まれていないため、旅館以外で行動を共にする事はない。
        相変わらず透き通るほど曖昧で薄い存在感だが、高尾には黒子の姿はしっかりと見えている。
        隣で走っている緑間はそちらには無関心で、長距離走に集中している。
        頭の中で平面図を描いた高尾は、2つの点と点を意識し、無理やりに直線を引っ張ってみた。
        しかし海岸沿いを通り過ぎると、すぐ2人を繋ぐ線を見失ってしまった。

        潮風に混じって、ほのかに薫る秘密。夏が湧く季節。
        鷹の目よりもさらに、はるか高みから注ぐ強い陽差しのせいで、
        高尾は自分の眼がすっかり惑わされていると感じていた。





        合宿生活もあと残りわずか、あくる日の朝だった。
        「占いビリでも、別にオレは気にしねーよ!」
        毎朝恒例のおは朝占い、高尾の星座の順位がビリだったことに対して、
        運勢補正アイテムを貸してやらんでもない。という態度の緑間の視線を受け流しているところを、
        洗面台を使っていた黒子とすれ違う。
        一人ではなく、誠凛部員も他数名。なかには試合で見覚えのある上級生も混ざっていた。
        「おっと、ハヨー!先輩もおつかれサマでっす!」
        「・・・・・おはようございます。」
        寝起きの掠れた喉声での返答に、よく見れば柔らかそうな髪質の毛先を四方八方に散らかしている。
        「オイ黒子。すっげー、寝癖ついてんぞ。」
        だはは、と大げさに笑いながら指差すと
        「何でかこうなります。」
        少しうつむき、首を手前に下げた黒子の動作に、また毛先が浮いて遊びだす。
        「どんだけ寝相悪いの!?てかヒヨコみたいになっててウケるし。」
        「はぁ。」
        黒子は頭上の毛束を撫でるが、ふわふわと浮いているようにみえる割に強情で収まりが付かない。

        背後にいた緑間が、人もまばらになった場に、よく通る声で平然と呟いた。
        「・・・・・寝相はいつも悪くないはずだろう。」
        「まぁそうですけど。」
        黒子も自然な流れで返事をした。

        「高尾、置いてくぞ。」
        朝の食堂へ向かう緑間は、黒子を通り過ぎ、足早に廊下を進んでいった。

        「だーっ、ちょーい待てっ!」
        後を追おうと、次の一歩踏み出した時、
        まだ洗面台に残って、タオルで顔を拭いていた誠凛の上級生が一言だけ呟く。

        「ん?なんでいつも悪くないって知ってんの?」
        頭上に浮かべたハテナマークが能天気に光って見える、本人にとっては極めて純真な心からの質問に。
        高尾は踏み出した足をその場に留めてしまったが、心底、何も聞かなかったふりをしたかった。

        「おい、コガ!ちょっと来い!」
        「何ー?」
        誠凛のキャプテンに呼ばれて、そのコガ先輩とやらはパタパタと
        まるで空気を読まない軽快な音で立ち去っていく。
        「・・・・・・・・・・。」
        「うわぁ・・・・うわ。」
        不純だったのは、続く言葉を失った黒子と、悟った自分の方だ。
        語るに落ちた当の緑間は、本当に先に行ってしまったようで、すでに後姿も見えなくなっている。



        「いや待て、帝光時代の合宿とかそういうので知ってんだろ!なっ!」
        「まぁ、それもそうですね。」
        慌てて取り繕おうとする高尾に、冷静に答える黒子。
        「オマエはもうちょっと動揺とかそういう物を学べ!なんでさっきと同じテンションなんだっつーの!」

        こうもあっさり露見して隠されもしないとは。

        「あー、もういいや!アレだろ?
        『オマエは俺のラッキーアイテムなのだよ!ドドーン!』とか言って、押し切られたりしたワケ?」
        「・・・・・・・・。」
        「あー、やっぱ無し無し!今のはさすがにねーわ。」
        「当たりです。」
        「マジでかっ!?」
        「いえ、嘘ですけど。」
        「どっちだ!コラっ!!」

        緑間も黒子も分かっていてやっている。
        近付きすぎる事なく、すれ違う事のないタイミングを知っている。
        隠すつもりはないのだから、痕跡だってそりゃ残るだろう。
        高尾は得意の平面図に、2つの点と点をそれぞれ中心として、コンパスで2つの円を描く。
        互いのスペースを侵さぬよう描かれた円の、けれどわずかに重なった円周上の共有点から。
        幅の小さな2本の弦の狭間で、確かに息づいている。
        ああ、なるほどここで重なるのか、とすんなり腑に落ちる。
        ようやく、離れた2つの点と点が繋がる方法を知った。
        もとよりぴったり寄り添う事を想像できない類の2人には、似合いの付き合い方だ。

        「どっちにしろ破壊力抜群なセリフですね。」
        本人が聞いたら怒りそうですが。と独り言る黒子は、涼しげな目元で少し嬉しそうにみえた。
        続けて、「緑間くんをお願いします。」とはっきりと告げて来た。
        そうして高尾は、両者の正確な像を捉えられたことで満足してしまい、
        驚くほど素直に、緑間の想い人を認めることが出来たのだった。