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              夏の潜熱(※緑黒) 







        互いに相性が悪いように装って息づく2人を観察するようになってはや…
        と、言えるほどの長い付き合いではない。
        黒子のプレイスタイルの変化に口を挟むのも、緑間が語る運命に縛られない結果を求めるのも。
        2人が揃った時にいつも交わされる会話は、けして穏やかでない。
        怖いもの知らずに、本音をぶつけている。
        “ここまで”なら言っていい相手だと、互いの譲れないラインを理解している盤上での舌戦。
        寧ろいつも緊迫しているぐらいだ。
        けれど、それにしては互いの事を好く知っているからこそ。みたいな口ぶりで話すんだよな、と思いながら
        高尾は毎度傍らで、2人のやり取りを眺めていた。

        同じ都内に進学した元チームメイトを偵察することは、おかしなことではないのだけれど。
        誠凛の試合を観戦しては、『自分を活かせる進学先を希望しなかった。』
        『尽くせる人事を尽くさなかった。』と難癖をつける。
        黒子のもつ特別な強さに対して尊敬すらしているのに、表面上は気に食わない。という態度を崩さず、
        緑間はなおも試合を見続けている。
        「オマエ、アイツにどんだけ注目してんだよ!?」
        「・・・・・言っている意味がよく分からないが。」
        「あ〜、へいへい、意地でも認めたくないってか。」
        黒子のことが気になって仕方がないのに、そういう高尾の憶測を的外れだと言う。
        けれど相手を翻弄する迷いの無い黒子のパスさばきを見て、高尾は確信していた。
        この緑間を揺さぶるのは、この黒子でしかないだろう。
        他とは違う異質な吸引力で、心を掴み離さないのは確かだ。
        先の3年間、秀徳の要となるべき緑間を脅かす、唯一やっかいな存在だが
        同時にひどく興味深くもあった。




        海辺の合宿地へと向かうバスは、夏の木立をくぐり、古めかしい旅館へ到着した。
        まさか誠凛と合宿地が同じなどとは考えもしなかったが、緑間の方こそ全く知らなかったようで、
        忌々しい。などと口にしながら不機嫌を隠さない。

        真夏の昼下がり。体育館から海岸線へは少し遠い。
        今すぐ走り出して、海へ飛び込みたい衝動駆られる暑さの中、両校の合同練習は行われた。
        蒸し暑い室内の片隅で、緑間と黒子は何らかの言葉を交わしている。
        キセキの世代、帝光中の元メンバーが話をしていれば、嫌でも目立つだろうに、黒子には誰も気にも留めない。
        コート上のボールを追う周囲にはせいぜい、緑間が立ち止まっている風な認識だろう。
        高尾の見下ろす視点で何事かうかがい近付くと、固い声色がはっきりと聞こえた。
        「僕自身が、もっと強くなりたいんです。」
        「・・・・・一人で戦えない男が、一人で強くなろうなどできるものか。」
        緑間の言葉に断ち切られ、黒子は表情に乏しい顔を上げて無言のままだったが
        けして屈したわけではなさそうだった。

        「気になる子ほど苛めたい、って、定番のアレなのかね〜。」
        思わず零れた高尾の独り言を気に留めるものも、誰もいなかった。



        夕食前の小休憩、配膳の準備は後輩の仕事である。
        人数分の茶碗を運んだり、茶パックを入れた急須を並べたりと、食堂付近は忙しい。
        が、もとより合宿への参加人数は1軍だけで大所帯ではない。
        適当なところで早々と抜け出し、部屋に戻った高尾は
        何故か配膳部隊に混ざっていなかった緑間と鉢合わせた。
        自分よりも素早く逃がれたのか、それともコイツだけ免除されていたのか。
        どちらにせよ、戸の前の緑間は廊下の先を見据え、
        どこかへ向かう素振りで、片手には小さな白い豚の置物を抱えている。
        「おーい、そのブタちゃんは何だっつーの。今日のラッキーアイテムってか?」
        白地に深緑色、トンボの飛ぶ軌跡が簡素に描かれている和柄のようだ。
        緑間はいぶかしげに、涼しげな陶器の小物を抱えた手をわずか背後に反らした。
        「・・・・・手伝いはどうしたのだよ。」
        「オマエがやってないのにやってられっかよ。
         てか、んな、かさ張りそうなモンまで持ち込んでんのかよ。っかー、スゲーなっ!」
        「ちょっと、出てくる。」
        否定も肯定もせず、それだけ言い残して立ち去った緑間の後姿を
        高尾は疑問ももたず大人しく見送った。


        その晩の夕食後、自主練習やストレッチに励む部員たちの間をすり抜けて
        近くのコンビニへ買出しに行くつもりだった高尾は、質素な旅館内の廊下で
        部員たちの隙間に埋もれていた黒子とすれ違った。火神の姿は見えない。
        「オッス!」
        「どうも・・・・・毎度よく気付きますね。」
        のそり、と振り返り呟く黒子は相変わらず、バスケをしている時以外
        冴えずぼんやりとした印象だ。
        「そうか?確かに影薄いけど、大まかに見渡せば分かるもんだぜ。」
        「他の人が大勢いる状態で、気付かれるのはそうそうないです。」
        だろうな、と内心納得しながら、
        「オマエが俺から逃げられないのは、前の試合で実証済みっしょ!」
        褒め言葉として受け取り、代わりに黒子の肩をバシッと叩く。

        「なーんて妙な台詞言うと、アイツに怒られそうだからヤメとこ。
         ん、どした?」
        黒子は屈み、ふくらはぎの後ろを指先で探っている。
        「いえ、また蚊にさされたみたいなんで。」
        「あー、O型は刺されやすいって言うよな。」
        「僕はA型です。」
        そういえば緑間はB型だと言っていた気がする、相性悪いとか何とか。
        「あっそ。俺も刺される前にささっと行ってくっかな、じゃーな!」
        「ハイ。」

        板張りの狭い廊下を進み、黒子はすぐ目の前にあった部屋に戻っていった。
        へぇ誠凛は1年も来てるのか、とレギュラー以外の部員がいるのを確認し
        同じ方向にある玄関へ向い歩いていくと、
        黒子が入っていった和室の大部屋の入り口からは、蚊取り線香らしき匂いが漂っている。
        視線を落とせば、扉のすぐ脇に、小さな置物。
        というか、白い豚の。陶器の、和柄の、
        ・・・・・さっきの。

        「ア、アレ?ちょっ、と待て・・・・・・・っ!」
        声が届く前に、むなしくも引き戸は閉じられてしまった。