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              発火点 







        最悪のタイミングで告白してきた黄瀬は、ひるんだ黒子の気配を逃さず、再び口付けてきた。
        親指で歯列を押さえ込み侵入してくる舌の先端が、上顎を押すようになぞる。
        唇から内壁の側面になる境の部分を、何度も柔らかく撫でてくるのがむず痒く、くすぐったい。
        身体を押し返すどころではなくなった黒子の抵抗は阻まれ、唇を閉じる事が出来なくなった。

        そうして初めて知ることになった他人の唾は、例えるほどの味が感じられず、
        さらさらと水っぽく、思いのほか生ぬるい。
        わざと咥えさせられ、口内に食い込む形になっている黄瀬の親指の温度の方がよほど熱く感じた。
        息継ぐ隙を与えられず、当たり前の前戯として舌を取り出し吸い付いてくるのに、
        戸惑い混乱し、酸素を吸い込むのに必死で、黒子は意図せずに熱っぽい息遣いを漏らし。
        そのすぐ後、目の前で黄瀬が生唾を飲み込む音を聞いた。


        「・・・・・ここまで見るの、俺が初めてっスよね。」
        唇の表面が渇くことのないよう、黄瀬は執拗なキスを繰り返しながら、
        黒子の開かれた胸元の素肌を撫ぜ、触れるのに夢中になっている。
        脇腹まで幾通りもの道筋を描いて手のひらが往復し、時折胸の尖りを引っかけては優しくなぞられる。
        「好き好んで見る人、いないです。」
        黒子の反応を伺いつつも身体を抱き寄せて、心臓の上を行き来する黄瀬の指先は穏やかなものだった。
        けれど抵抗むなしく襲われているという下卑た事実にはうんざりし、
        黒子は心拍数をあげて重なっている互いの身体に対し、自嘲気味に答えた。

        「・・・よりにもよって、初物好きですか。」
        「そんな事ないと思うけど、でも初々しい反応の黒子っちは・・・、正直堪らないっス。」
        「・・・世の中の男は、相手にとって一番最初の男になりたがり、
         世の中の女性は、相手にとって最後の女になりたがる・・・・・、だそうです。」
        「また妙な本、読んだんスね。」
        「キミは僕にとっての初めてが物珍しいだけでしょう。」
        「望むならいくらでも。黒子っちの最初で、最後の相手になる覚悟あるよ、俺はね。」
        自信満々に妄言を吐く黄瀬を相手に、会話が成立している気がしない。
        「ねぇ、直接触っていい?」
        承諾など最初からしていないだろうに、と黒子が不満げに目を逸らすとすぐ、
        額と額とをすり寄せた至近距離で、くい、と顔を上げさせられる。
        真昼であるのに遮断された光。
        校内なのに切り離された空間。
        黒子の視界を奪って、互いだけしか見えなくなるよう仕向けたのは黄瀬だ。
        真剣に強請る眼差しに正面から見つめられ、眉をひそめてわずかに退いた黒子に
        黄瀬は非道く甘ったるい顔で、照れたように目を細め、「可愛い。」と囁いてくる。
        そんな言葉、同性の自分が嬉しがるわけがない。そんな顔されたって、同性の自分は受け入れられない。
        けれど今の黒子は、黄瀬以外、見ることを許されない。



        鼻先を交わし、湿った舌先で再び軽く触れるだけのキスを与えた後に
        黄瀬はいよいよ下着の中を手繰ってきた。
        「・・・・・・っ、」
        「ごめん、・・・ごめんね。」
        侵入した指先に絡めとられ、比べ物にならない程生々しい刺激が訪れて
        黒子の半身はすぐに跳ね上がった。
        ビクつき、後ろによろけた身体を、強張ってしまった肩ごと黄瀬が空いた手のひらで抱き支える。
        「謝りながら手を進めるのって、矛盾・・・してません・・・か・・・・っ。」
        小刻みにビクつくようになった黒子の肩先に、黄瀬は顔を寄せ、また数段甘さを増した声で囁いた。
        「最初から痛くなるような事、しないから。」
        「・・・・・何気にえげつない事、言わないでください・・・。」
        閉じ込められた胸元を一度だけ叩いて、黒子は力無くあらがう。
        「全部・・・ね、俺に任せてくれればいいし。」
        「それも、癪、です・・・・・。」
        「それは黒子っちも協力してくれるってこと?」
        「揚げ足、とか・・・・っ。」
        強引に高められる快感に、言葉尻が曖昧になってしまう。急速に理性を攫われる。
        黄瀬の手のひらは、形をなぞるようにゆっくり擦り上げてきたかと思えば、
        指の腹でぐちぐちと、執拗に先端を引っかいてくるようになった。
        「・・・・・・っ、・・・・・っ、・・・・・ふ・・っ・・・・」
        「喋る時はいつもより饒舌なのに、そういう声は我慢するんスね。」
        「・・・っ・・・・・」
        「・・・んか、逆にエロいっスよ。」
        黄瀬は小刻みに震える黒子の太腿を、濡れてべとついた方の手のひらで持ち上げて
        その身体を背後の長机に押し上げ、力の抜けてしまった脚を更に広げさせる。
        冷房の効いている室内で上着だけは残されて、下半身の衣類は下着ごと全て剥がされた。
        衣類も容貌も、表情にも特段乱れのないように見える黄瀬を視界の端に捉えながら
        チラチラと映る左耳のピアスを、経験値の差から生まれる余裕ごと引き千切ってしまいたい。と、黒子は思った。



        腕捲りもしていなかったシャツの袖口に、少しだけかかった白濁。
        自分の手首に付着した汚れを見て薄く笑った黄瀬は、粘ついた液体を舐めとり、
        更に調子づいて黒子を快感の渦へ落とし込もうとする。
        「しつっ・・・こい・・・っ」
        「そりゃ黒子っち相手だもん、しつこくも・・・っ、なるっ・・・ス。」
        両脚で他人の頭部を挟んで、自分の性器を咥えられるなど
        幼かった黒子には考え付く限りで一番凄絶な光景で。
        いよいよ黒子は余裕を手放し、冷静をうまく保つつもりだった表情を歪めてしまう。
        最初に生ぬるく柔らかいと思った相手の口内の肉感。
        一方的なキスに舌を引きずり込まれ、翻弄されるだけでも辛かったのに、
        それ以外、それ以上の用途に向けられるのは更に耐えがたかった。
        予想外に冷たく感じた口内温度に比べ、自分の体温の上昇をあからさまに感じられてしまうのも厄介だった。
        どうにか引き剥がそうと、脚の間にある相手の髪に手を差し込んでみるものの
        痙攣する太腿を優しくなだめる黄瀬の方が完全に優位に立っていて、黒子の抵抗は簡単にいなされてしまう。
        「ダメだよ黒子っち、本当に嫌なら・・・・・ちゃんと嫌がらないと。」
        頬張っては、引きずり出すという、荒淫な動きの最中。
        「そんな顔をされたら、逆に近付きたくなる。」
        「黒子っちが良いだけ、俺も良くなるって分かってる?」
        黒子の自尊心をこれでもかというほどズタズタに傷つける煽り文句を、立て続けに浴びせられて、
        黄瀬の咥内で膨張し、爆ぜる段階まで高められるのは、非常に屈辱的だった。
        「・・・っ・・・・・、・・・や・・・・・・・、・・・・・・っ・・・」
        「そんなに、動いちゃダメ。」
        甘やかすような口調で叱咤するのに、下半身はどうしたって生理的な現象で震えてしまう。
        過去があるなら分かるだろう。同性ならば分かるだろう。
        馬鹿じゃないか、本当に、馬鹿じゃないのか。
        おかしいだろう。こんな事をして喜ぶ精神なんて。
        こんな事をされて喜ぶ身体なんて。気狂いだろう。
        「・・・・・・っ、・・・・・・っ・・・ふ・・・・・ぁ」
        半身に集まる浮遊感を、黄瀬への暴言に置き換え、途切れそうな意識の中。
        溢れ、募り満たされ、腹部を濡らすはずだった飛沫を、黒子が止めるのも聞かず
        ついに飲み込んでしまったのを、信じられない想いで目撃した。
        「・・・こんな・・・・・、最、悪・・・っ・・・。」
        荒い息を吐いて罵倒するも、黄瀬は心底嬉しそうに唇端を上げていて、
        崩れ落ちた黒子を逃さぬよう、しっかりと抱き締めてくるばかりだった。



        「・・・・・なんだか、眠くなってきました。」
        暗がりの教室内で、少し間をおいて平熱を取り戻した黒子は
        脇の机に放り投げられた衣類に目を向け、呟いた。
        一番上に下着が積み重なっているのが見え、居たたまれない気持ちになる。
        「そりゃ、血圧一気に上がって、下がってるから。・・・・・何度も。」
        「短い人生で、ダントツに嫌な睡魔です・・・・・今、何時ですか。」
        「そんなに経ってないはず・・・ていうか、時間、気にする余裕あるんスか・・・?」
        黄瀬の声色が一段低く、艶めいたものに変わる。
        しまった、と黒子が思った時には、
        「それなら、まだ大丈夫そう、っスよね・・・。」
        「ちが、・・・・・っ」
        「ね、今度は、一緒にイきたいっス。」
        黄瀬は、否応無く、黒子の身体をもう一度机へ押し上げてしまう。
        机の角に放り出されていた膝を、机上に折り曲げた格好にさせて、身体同士の距離を縮めてくる。
        「・・・・・そういう露骨な事、言ってて、恥ずかしくないですか・・・・・。」
        「恥ずかしいことなんて、何もないよ。恥らう黒子っちは最高に可愛いと思うけど。」
        脱力している身体に確かな意図でもって触れられ、再び痙攣しだす半身。
        言葉に反した、身体の素直さが苛立たしい。
        刺激に対する自らの浅ましさを、黒子は改めて嫌悪した。

        「だいたい、・・・・・あいにく僕は童貞ですが。キミと肌を合わせただけで、どうなるって事でもない。
         喪失もない。種付けされない、妊娠もしない。
         こんなことは自分で慰めるか、・・・他人に慰められるかの違いです。」
        その言葉を聞いた黄瀬は黙ったまま、黒子の片手を取り、着崩した制服の自らの左胸に押し当てた。
        「そうやって、自分から絶対に崩れたりしないスタンスが好きだから。
        ・・・・・こんなになるまで、滅茶苦茶我慢してたんスけど。」
        乱れの少ない容貌より正直に、黒子の手のひらに伝わる。
        鼓動早く響く、黄瀬の心臓の音。
        「無意識に煽って、そのくせ隙だらけなの、・・・・・もう俺の前だけにして欲しいっス。」
        そのまま滑り落ち、2人分の熱を持った場所に辿りついてしまった黒子の手を、
        上から重ねられた黄瀬の指先が強く握り込む。
        「一緒に、触ってて。」
        黄瀬が摩擦する動きをゆっくりと加えていき、
        黒子は自らの意思で動いていない自らの手の動きに困惑してしまう。
        共に濡れて熱が生まれ、硬く昂ぶっていく過程は、細かな火花が散るような感覚で捉えられた。

        「ずっと、こうしたい、って思ってた。」
        自分勝手な気持ちを優先するくらい、好きで、好きで、たまらない相手に
        したくてしたくてたまらない行為を、積極的に要求する。
        黒子を手に入れる為の手段と口実を巧みに使い分け、
        さも相手の気持ちを一番に考えている素振りで、実際には、鮮やかに要求している。
        秘し隠されていた黄瀬の性的衝動は、燃え尽きる気配がなかった。

        黒子は、胸の奥の芯がりにそれが火移りしていくような錯覚を起こして
        ついに、囚われてしまった。