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             溺愛パレット(赤黒>黒子総受) ※女体化注意!







        先日、梅雨の只中に開催された帝光中の学園祭にて、赤司は各部活が催した遊戯大会で完全勝利をおさめた。
        将棋部、囲碁部、チェス部、オセロ部の各部長は頭を垂れてうちひしがれ、
        赤司の通ったあとには草木一本残らなかった。
        …と、新聞部発行の記事には大々的に掲載されている。
        それぞれに用意されていた優勝賞品は、菓子の詰め合わせは紫原に、
        遊園地のペアパスポートはマネージャー達へ渡したそばから取り合いに、
        商品券はバスケ部の備品の補充にあてられて、赤司の手元には何も残っていない。
        見返りが欲しくて挑んだのではない、勝利は初めから至極当然のことだった。

        学園祭の後片付けも終わってのち、赤司の前にその生徒は現れた。
        奇術研究会の部長だと名乗ったが面識はない、同じクラスになったこともない相手だ。
        帝光の学年ごとの生徒数は他校に比べれば多く、接点がなければ同学年の生徒でも顔見知りにはならない。
        しかし相手方は、学力テストで上位に食い込む常連の赤司をよく知っているらしい口ぶりだった。
        赤司よりわずかに背が高く、鼻梁に落ちかかっている眼鏡のせいで表情がよくつかめない。
        短めの髪の毛で毛先を散らしているが、セットなのか寝癖なのか区別がつかないような有様だった。
        初対面の生徒が一方的に説明するには、赤司が道場破りのごとく打ち破った盤上ゲーム大会と
        同じ列に出店していたらしい。そこで赤司が次々に各部の対戦相手を打ち負かしているのを目撃し、
        ぜひ奇術研究会も勝負を申し込みたい。などとなれなれしい口調で語ってきた。
        「もう学園祭は終わった。僕も忙しいし、動かせる駒がないようなゲームに興味はない。」
        一蹴する赤司に対して、先方も食い下がらない。

        <――――校舎の窓に映る、雨上がりの虹を隠した。それを見つけてほしいんだ。>
        「虹…?」
        言っている意味が分からなかったので一度聞き返したが、同じ言葉を繰り返されただけだった。
        種明かしこそできないが、少しは奇術師としての腕に自信がある。今までにこのマジックを破れたものはいない。
        赤司が望む事を何でもひとつだけ叶える代わりに、どうかこの勝負を受けてほしい。と
        すらすらと暗唱するような口ぶりで説得される。
        「何でも叶えるなんて、ずいぶんな大口を叩くな。もし僕が難題を押し付けたらどうなる。」
        叶える、と相手は断言した。
        「……梅雨の中休みになれば、虹なんてどこかに出るだろう。すぐに見つかるはずだ。」
        見つからない、と自信たっぷりに即答された。
        魔法を解こうと挑戦したものは皆、仕掛けたトリックに引っかかり迷路に閉じ込められてしまう。
        挙句見つけられず降参したのち皆が皆、狐につままれたような顔をしている。
        これまでに誰も隠された虹を見つけられなかったし、自らの願った望みを叶えたものはいない。
        そんな捉えどころがない勝負内容を聞いていくうちに、赤司はこれは受ける価値のない話だと判断を下した。
        「……期限は。」
        勝負が開始されてから虹が出現しなくなる日没までの時間。とりわけ見つけやすいのは夕刻だ。
        と相手は言ったが、もはや惰性で耳を傾けていた。
        「虹なんて数分しか見られないものを、それこそ目の色を変えて探す気にはなれないな。」
        他をあたってくれ、と断りの言葉を入れるも、相手は押しの一手で1枚のカードを取り出し、
        赤司の制服の前裾へと差し込んできた。すぐに払おうとしたが、離れる指先の方が素早かった。

        望みを口にした瞬間が開始の合図。地獄耳だから、校舎内いつでもどこでも受け付ける。と
        予鈴が鳴ったところで、奇術研究会の部長は廊下の人ごみに紛れて去って行った。





        ようは願いを口に出さなければ良かったのだろうが、実際叶えられるとも思えない。
        しかし場所も時間も問わない地獄耳などあるだろうか。

        昼休み後の美術の時間。絵具箱を開き、それぞれに保管していた絵を準備するクラスメイトたち。
        赤司は先週水張りしておいたアクリル板のパネルを持ち出し、一目みて嘆息した。
        課題は級友の顔を模写すること、中央の白い水彩紙にはまだ何も描かれていない。
        下書きだけならすぐに出来るが、問題は着色だ。
        手元にある絵具のチューブには各色の名称が記されているものの、今の赤司には全てが
        様々な濃度の灰色にしか見えない。絵具どころか、視界に入るもの全てがモノクロである。
        普段と変わらない周囲の制作風景を眺めて、色覚異常に見舞われているのは自分だけらしいと赤司は悟った。
        これでは雨上がりの虹を探すどころではなく、今は当てずっぽうに色を混ぜ塗っていくより他にない。
        「敦の顔面、肌色じゃなくてもいいかな。」
        間の悪い授業内容にうんざりして呟く。
        「……えー、さすがに真っ赤とか真っ青はやだよ。」
        向き合っている紫原はやる気なさげに、赤司の顔を見もせずに下書きの鉛筆を走らせている。
        「んじゃあ赤ちんの顔は、レインボーで。カラフルにしてあげるねー。」
        のんびりとした口調で答える紫原のタイムリーな言葉に、赤司はわずかに驚いた。
        「7色もどこで使うつもり?」
        「えーと…目でしょ、鼻でしょ、口でしょ。髪と肌と…あらら。我ながらすごい配色。」
        「虹の色って世界で統一されていないんだ、外国じゃ2色とも5色とも言われてる。
         だから虹色も、本当は7色で塗る必要はない。」
        「ふーん、赤ちんやっぱ物知りだわ。じゃ適当にカラフルにしよっと。」
        さらさらと下書きを描き上げた紫原は、白いパレットの上に絵具を次々と絞り出していく。
        赤司にはどの色も判別できなかったが、
        紫原のパネルには派手な色合いの人物画が出来上がっていくのだろう。

        「ねぇ、このカード、敦には何色に見える?」
        先刻、得体の知れない生徒に押し付けられた小さなカードを取り出して紫原に見せてみる。
        「んー……、赤でしょ?」
        その返答に赤司は満足して頷く。
        「やっぱり赤なのか。」
        表裏まじまじと観察しても、一言も書かれていない名刺大の厚紙だった。表面はつるつると滑らかな質感をしている。
        しかし無彩色のこの視界で、唯一このカードだけが赤司の目にも、紅を引いたように鮮やかな
赤色に見えていた。
        赤司が懐から取り出した時にはすでに色が付いていたのだ。
        どの灰色にも属さず赤く染まっている、このアイテムをどう取り扱えばいいのか。まるで見当がつかない。
        指でつまんでいたカードを、正面に座っていた紫原が近付いてきて、ひょいと掴む。
        「わ、すごっ。紫色になったし。」
        「何、」
        紫原の手に渡った紙切れは、確かに藤のように柔らかな
紫色をしている。
        「どういう仕掛けだろ?体温かな、俺の名前とか?そんなまさかだよね。」
        「いや、…人から預かったものだから僕にもよく分からない。変色するとは思わなかった。」
        紫原から赤司の手に返された途端に、それはまたインクが染みるような速度で再び赤に戻っていった。





        「すみません、今日の部活、お休みもらってもいいですか。」
        授業を終えて戻った学年棟の廊下で、赤司を待っていたらしい黒子から声をかけられた。
        赤司の方から様子を伺うつもりだったが、探す手間が省けた。
        黒子は普段と変わらない素振りだったが体育着のまま、ジャージの上着まで着込んでいる。
        次の授業まで10分もないが、教室の前では込み入った話は出来そうもない。
        出欠の許可をするだけならすぐに帰せたが確認しておきたい事がある。
        赤司はこちらからも話がある旨を伝え、授業に遅れるのを承諾させてから人気のない部室へ向かった。

        「単刀直入に聞く。その声はどうした?」
        黒子に話しかけられた時、違和感を覚えたのはいつもよりも若干高い声。
        声を張ってはいるが聞き慣れない感じのする地声だった。
        冷静で少しボーイッシュな、男とも女とも言い切れない響きがある。
        「体育の途中で急に身体が重くなったので、今まで休んでいました。妙なことになったのはそれからです。」
        なぜかジャージの胸元の布地を握りしめ、肌から浮かせるように寄せている。
        赤司はそわそわと不審な仕草の黒子に構わず、その胸元を引っ掴んだ。
        「隠さなくてもいいよ、分かってるから。」
        「…う、わ……っ」
        黒子は振りほどこうと腕を上げて後ずさりしたが、赤司は抵抗に構わず、黒子の胸に片手をしっかりと密着させた。
        確かめた感触はわずかだが、予想外に温かくやわらかい。
        五本指の関節を動かせば、小さく凹みをみせる程には肉の弾力がある。
        「テツヤ、どうしたの。胸があるね。」
        「…っ、止めて下さい。」
        人肌の感触に味を占めたように、ジャージの布地の上から鷲掴みにした胸に触れる赤司の手を
        黒子は押し退けて、胸元から離した。
        「ああ、敏感になってるのか。」
        「保健室で寝て起きたらこうなってました。どうも、…その。」
        「性別が逆転してたって?……スゴイねそれ。」
        にわかには信じがたい、しかし赤司が身を持って体験している視界の異常だけでなく
        黒子自身もそれを認識している。
        赤司が図らずも口にした冗談のような願いが、目の前で叶えられている。
        黒子は今、女性化している。
        「信じてもらえないのは重々承知です。……でも、本当です。」
        「身体の隅々までちゃんと確認した?」
        「表面上、凹凸は少ないけれど年相応の女性の身体でした。」
        「布越しじゃよく分からないが…僕の見た感じ、普段よりもう少し華奢にもなってるだろう。」
        「背も若干低くなってます、たぶん桃井さんと同じくらいまでには。」
        「……言われてみれば視線が低いな。」
        異常事態をすんなり受け止めているように見えるのだろう。
        黒子は全て分かっているかのような赤司の落ち着きに戸惑いを見せた。
        が、赤司の方からすれば、先に体験しているモノクロの世界に今更黒子が紛れ込もうと
        状況はさほど変わらなく思える。
        「見えるものの高さがいつもと違って、気色悪い。別人の身体に僕の精神だけが乗り移ったみたいです。」
        「生殖器は?子宮は?内部は一体どうなってるんだろう。面白いね。」
        「……全然分からないです。僕だって、マジマジと観察したわけじゃないですから。」
        赤司の直接的な問いかけに辟易したのか黒子は目を逸らしてしまう。
        「せっかくの異性の身体だろう。」
        「肌の色や質感は自分のものなのに、知ってるフォルムと全然違って気色悪いんです。……ふくらはぎも、腰回りも。」
        「確かに、ひどく中性的であやうい印象を受けるよ、今のテツヤは。」
        背格好の華奢なショートカットの女生徒に変貌してしまった黒子の姿を見て、赤司は口元をほころばせた。
        モノクロに染まった世界といい、不覚にも声に出してしまった望みを叶えたことといい。
        何がどうしてこうなったのか見当もつかないが、奇術研究会を名乗っていた人物はたいした技術の持ち主だと思う。
        挑戦を叩きつけてきた相手に会いに行こうと考えたが、そういえば顔をさっぱり思い出せない。
        クラスも名前も聞いていなかった。あの時すでに術中にはまっていたのかもしれない。
        教室ごとに探していけば見つかるのかもしれないが、すぐに放課後になってしまう。
        背格好はかろうじて覚えている、奇術研究会だということも分かっている。活動部屋へ行けば会えるだろうか。

        赤司の望みは間違った形で叶えられてしまった。
        勝負に負ければおそらく黒子の身体はもとに戻るはずだ。しかし赤司は負けなど知らない、敗北などありえない。
        「すまないね、信じがたいかもしれないけれど。こうなった原因を僕は知っている。」
        「本当ですか?」
        「……けど、負ける気は更々ないんだ。」
        赤司は誰に聞かせるでもなく、きっぱりと断言した。

        窓の外ではまだ強い雨足が続いている。
        果たして陽が落ちるまでに、今日の雨は上がるのだろうか。