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             溺愛パレット(赤黒>黒子総受) ※女体化注意!







        黒子を紫原に預けてから、赤司は単独で「奇術研究会」の部室へ赴いていた。
        文化部棟の目立たない一角。充てられた部屋の大きさから、部員数はさほど多くはないと予想できる。
        終業直後のためまだ部員は来ておらず、扉の前には部員随時募集中!との張り紙がされていた。
        少し待ってようやく一人目の部員が鍵を開けにあらわれたところで、部長に会いに来たことを告げたが
        すぐさま部長は自分である、と返される。
        目の前の人物は、赤司を無理やりモノクロの世界へ引きずり込んだ生徒とは別人である。
        では件の生徒は部員にいるだろうかと、寝癖のような髪型をした眼鏡をかけた生徒のことを尋ねれば、
        それはこの春引退した先代の部長で、現在は極まれに部室に顔を出す程度…とのことだった。
        念のため「空に出た虹を隠せるようなマジックは存在するのか?」と突拍子もない問いもぶつけてみたが、現部長は
        マジックミラーを仕掛けるかまたは暗示をかけるなりして、目の錯覚を利用すれば可能ではないかと親切に答えてくれた。
        先代部長の名前とクラスを聞き、部室を後にする。聞いた名はやはり赤司の知らない生徒だった。
        再び校舎に戻り、聞いた通りの教室を覗けばすでに人影はまばら。
        居残っていた生徒に行方を尋ねるも誰も知らず、帰宅したかも分からない。

        今日の日没までに、この校舎の窓に映る<雨上がりの虹>を見つけられなければ。あるいは“負け”を認めれば。
        もともと間違って賞品にされた黒子の身体は元に戻るだろうし、この目も色を認識するようになるだろう。
        本来ならば何もせず身体が元に戻るまでじっとしているのが得策だ。
        しかし赤司には最初から敗北など存在しない。赤司にとって、呼吸することと勝利することは同列だ。
        もし暗示をかけられているなら解かなければならない。仕掛けがあるならば取り除かなければならない。
        虹が出るはずの外は大雨、黒子は女性化、彩りのない視界。
        不思議なことばかり立ちはだかっているが、少しずつ駒を揃えて進路を行くのは面白い。

        「――――おい赤司、テツ知らねぇか。」
        自分を呼ぶ声に気付けば、先の教室の窓から青峰が顔を出している。
        いつもならいち早く体育館に向かって準備運動をしているはずで、放課後の教室に居残っているのは珍しい。
        「大輝、まだこんな所にいたのか。早く体育館に行くんだ、今日はコーチも揃っている。」
        「テツが見当たらねぇんだよ。体育の途中で保健室行ったっきり、HR終わっても戻ってこねぇ。」
        青峰は廊下側の窓から肘を突きだし、苛立った素振りで頭を掻いている。
        「そんで今、保健室寄ったらもう出てったとよ。荷物ここに置きっぱだし、アイツどこ行ったんだ……。」
        バスケ部レギュラーの中で、黒子に対し執着を見せているのは何も黄瀬だけでないだろう。と赤司は常日頃感じているが
        青峰は黒子の不在に対してひどく敏感だ。近くに居て当たり前のものだと思っているのだろう。
        「余裕がないな。大輝はテツヤが居ないだけでそんなに心許ないのか。」
        「……はぁ?ダチを心配して悪りーかよ。調子悪そうだったんだ、マジで。」
        他大勢にとっては居ても居なくてもさほど重要ではないのに、
        よりによって全国制覇達成のバスケ部エースを簡単に腑抜けにしてしまう。
        パス特化の能力を抜きにしても、黒子は赤司の切り札になりうる。
        例えば黒子を人質に取ってしまえば、青峰も黄瀬も、おそらく緑間だって動揺は隠せないだろう。その影響力を怖ろしく思う。
        「テツヤならさっき会っている。身体が辛そうだったから、部活は休ませることにした。」
        「……そんなに悪いなら病院行かせた方がいいんじゃねーの。」
        「いや、大輝が心配するようなことはない。疲れが出たんだろう。」
        言いながら赤司は胸元から小さなカードを取り出し、青峰のボタンの留められていないシャツの胸元に押しあてる。
        赤司の手中で
赤く発色していたカードは、またたく間に海のように深い青色へと変化した。
        白黒の視界の中で、色鮮やかなのはこの紙切れだけだ。
        「何すんだ、くすぐったい。」
        「ああ、やっぱり大輝は青色か。」
        結果に満足した赤司は、すばやくカードを手元に戻す。
        「お前、テツをあんま苛めんなよ。」
        「人聞きが悪いな、大輝こそ。そんなに心配なら傍に括り付けておけばいいだろう。」
        「アイツがそんな大人しくしてる玉かよ。」
        黒子の無事を確かめた青峰はもう赤司を振り返らず、荷物を背負って、教室を走り出て行った。



        いつだったか少し前、体育館の隅で桃井に責められていた黄瀬の姿を思い出す。
        「きーちゃん、また告られたでしょ?」
        「諦めるから思い出をちょうだい、って言われて。ちゃんとキスしてあげたんだってね。」
        「だから振られても好きでいてくれる女の子、結構いるんだよ。ズルいよ、どうして優しくするの。」
        「きーちゃんはちっとも一途じゃない。誰にでも優しい人なんて信用できない。」
        桃井の一方的な言葉を黄瀬がのらりくらりとはぐらかしていた覚えはあるが、二人の言い争いは平行線に終わった。

        それから相変わらず誰にでも優しい黄瀬の行動は、ある程度予見できていた。
        けれどまさか相手を間違えるほど愚かだとは思わなかった。
        赤司が昼休みに通りすがり邪魔をした階段の同じ場所で、黄瀬は告白してきた女生徒とやり直しの逢瀬をしていた。
        しかし思い出のキスの相手が黒子だと分かった途端、赤司は呆気にとられ自然と低い声がこぼれた。
        「何をしてる。」
        階段下で黄瀬の拘束から逃れた黒子は、見たこともないほど怯えた顔をしてみえる。
        本命である黒子に一番してはいけないことを、黄瀬はしでかしたのだ。
        「自分で墓穴を掘るようじゃ、テツヤに内緒にする必要もなかったね。馬鹿馬鹿しい。」
        女生徒からいつもの告白を受けていたことを内緒にしてほしいと言ったのは黄瀬だったが、見事な自滅だ。
        「こっちにおいで。」
        黒子の手を引いたまま、赤司はその場を離れた。
        待ち合わせていた本物の女生徒の登場に困惑しているのだろう、黄瀬は追いかけてはこない。

        有無を言わさず階段から引っ張り上げ連れてきた黒子の手のひらからは、微かな震えが伝わってくる。
        黄瀬が見知らぬ女子に宛てどういう類の優しさで対応しているのか。真実を知り、怖くなったのだろう。
        飢えを隠し、穏やかに甘ったるい笑みを浮かべている、道化けた黄瀬の姿しか知らないのだから当然だ。
        男の黒子が、冗談交じりの黄瀬の告白をはねつけるのとは訳が違う。女の姿で、男の相手をするとこうなる。
        押し返せるほどの力もない。
        校舎の自販機前で立ち止まったところで、ようやく黒子の手を離した。
        「飲む?口の中、気持ち悪いだろう。」
        「いえ、あの。……大丈夫です、お構いなく。」
        慣れない身体でここまで走らせてしまった黒子はひどく消耗した顔で、途切れ途切れ言葉を口にする。
        遠慮はいらない、と赤司は小銭を数枚落としペットボトルを片方、黒子に押し付けた。
        「気を遣わせてしまってスミマセン…、ありがとうございます。」
        黒子は受け取ったボトルの蓋も開けず、空ろな顔で廊下の隅に佇んでいる。心の動揺が収まっていない。
        なぜいきなり黄瀬に唇を奪われたのか、どうしてこんな目に遭ってしまったのか。
        黒子は何も知らないのだから整理がつかないのは当たり前だ。
        「――――あの踊り場で、」
        蛍光灯に白く照らされた廊下で、赤司は雨の窓際に背を預け切り出した。
        「涼太が告白を断って、相手が諦めるかわりに口づけを強請っていたところは見ていた。」
        「…………。」
        「その時は僕が邪魔したものだから叶わなかったけれど。テツヤが出くわしたのはおそらく2回目の場だろう。
         背格好も髪型も偶然よく似ていたから、告白してきた相手に間違えられたんだ。確認しない涼太が悪い。」
        赤司の言葉に、黒子は一瞬顔を歪め、視線を落とした。
        セミロングの髪を揺らし、うつむき加減の黒子は大層しおらしかった。

        「敦と一緒に借りて来たんだろう、その髪型。よく似合っている。」
        薄い唇を噛みしめ、辱めに耐えるような面持ちで、胸元にペットボトルを抱えて立ちすくんでいる。
        格好はジャージだったが胸の膨らみはあるし、肩幅は頼りなげで小さい。
        しかし見た目に反し負けん気の強い性分だ、女扱いされ、優しくおだてられるようなことは我慢ならないのだろう。
        黒子は、女子になった自分を逆手に誰かにすがろうともしない。
        あくまで独りで、細い手足に力を入れ倒れまいとしている印象を受ける。
        この状況が独りではどうしようもないことだと本人も分かっているのに、だ。
        赤司は黒子が女臭い仕草で自分を頼りにすがろうものなら切り捨てるつもりでいたが、
        こんな態度をとられてはたまらなく放っておけない気分になる。黒子はもうひどく傷ついている。
        少々苛めすぎたかと赤司は思ったが、普段なかなか弱り目を見せないその悲痛な姿はとても可憐に思えた。
        頬は紅潮しているだろうか、青ざめているのだろうか。
        目尻は赤く腫れているだろうか、それとも涼しげを装い強がっているだろうか。
        今の赤司には見分けられない。色の区別が付かない。
        色覚異常の現状をそれなりに楽しんでいる赤司だったが、黒子の表情の変化を正確に把握できないことだけが悔しい。

        赤司は上着の胸元から名刺大の
赤いカードを取り出し、うつむいたままの黒子の頬にそっと当ててみた。
        肌に直接かざしたカードは、見ている前ですぐさま変色した。
        カード全体は白地になり、
紫色がそれぞれ丸い図柄で隣り合って浮かんでいる。
        「これはまた、僕のいない間にずいぶんと。色を溜めこんだな。」
        思わず独り言を漏らした赤司を、黒子は顔をあげ不安そうに見つめていた。



        赤司は奇術研究会を訪ねてから黒子の元へたどり着く間、この不思議なカードに対し実験を行っていた。
        すれ違った知り合い全員に、人類科学の実験だと嘘ぶきカードをかざす。
        赤司が触れている限り赤く発色していた紙切れは、他人の元へ渡った途端に様々な変化を遂げた。
        一番多かった変化はクリア。無色透明となったカードはガラスのように透けて、背景を映した。
        数は少なかったがネイビー、アクア、ライム、フクシャとそれぞれ違う趣の淡い発色をさせた者もいた。
        一方、途中で出会った青峰などは、三原色に属するくっきりと美しい青色を示した。
        人それぞれが絵具のように対応し、彩られているのは確かだ。どの部分に反応、発色しているのか詳しく検証する時間はない。
        スピリチュアリティに興味はないがおそらく人の潜在能力であるとか能力の質、深層心理、心の色合い。
        大まかにそういう分類が決め手だと思われる。ただ一つの例外は、黒子だった。
        赤司ははじめから、黒子ならば黒色だろうと勝手に決めつけていた。
        赤司が赤、紫原が紫、と絵具と名前が対応しているように思っていたからだ。
        予想に反し、黒子へかざしたカードの発色は白かった。しかも、白を土台にして日の丸のように中央が
赤く染まっていた。



        そして今、カード全体は白地のまま、
紫色がそれぞれ丸い図柄で、信号機のように三色ぼんやりと浮かんでいる。
        「内面が不安定になっているだろう、だから男に付け込まれる。」
        赤司の言葉に、黒子はわずかに首をかしげてカードを覗き込んだ。
        「まあこれなら、……涼太を惑わしたのも無理はないね。色数が多くなっているから、誘ってるも同然だったはずだ。」
        赤司はもう確信していた。性別が反転した結果、黒子は白になったのだ。
        それも他人の色を取り込んでしまうほど純真な、極上の白。
        触れられた箇所から色に染まり、少女の身体は密かに息づく。
        その身は色数を増やすほど、こぼれ出しそうな少女の色香に染まる。

        「さっきも見せてもらった……。このカードは一体、何ですか。」
        ようやく口を開いた黒子の声はやはり、冷静で少しボーイッシュな響きを持つ中性的なものだった。
        わずかでも好意を持つ者にとって、色を含んだ眼差しをもつ今の黒子の状態は、たまらなくあやうく映るだろう。
        聞き慣れない声での黒子の質問に、赤司は答えなかった。
        「一つ話しておくと、実は奇妙なことを体感しているのは何もテツヤだけじゃない。
         今の僕には色が見えていない。さっきから、見えるもの全てが白黒テレビのような世界になっている。」
        黒子は怪訝な顔で、赤司をじっと見つめている。
        「それが本当なら不自由、ですね。とても。」
        「ちょっとした勝負をしていてね。色の区別が付かないこの目は僕のハンデだ。
         そして女の子になったテツヤは、賭けの賞品。」
        「……じゃあ!大元の原因は赤司くんじゃないですか。
         キミならばこんなくだらない状況は、簡単に打破できるでしょう。どうしてそうしないんですか。」
        「確かにもう勝利への鍵は掴んでいるよ。けれどあまり褒められた方法じゃないし、これが正解かも分からない。」
        「それは嘘だ、ずば抜けて頭の切れるキミの事です。もう答えは出ているでしょう。」
        「僕が導き出した解答は正直、気が進まない。」
        「……キミの気分に振り回されるのはゴメンです。早く元に戻してください。」
        「うるさいな、」
        黒子の剣幕を、赤司は一言で制した。黒子は一瞬顔を歪め、再びうつむき黙り込んでしまう。
        ああやはり、傷ついた表情はとても好ましい。

        「……知ってる?花は種類によって、“終わる”時の表現が違うんだ。」
        「桜は散る、梅はこぼれる、」
        「……椿は落ちて、牡丹は崩れる。」
        「今の状態の、とても花れんな姿のテツヤを手折ったら一体どうなるんだろう?って、」

        「――――そんな事を、僕はさっきからずっと考えている。」
        赤司が導き出した答えを全て聞き終えないうちに黒子は、苛立ちからか危険を察知したのか、
        慌ただしくその場を駆け出していった。しかし今は捕まえずとも構わない。

        最後にここへ戻ってくることはもう、視えている。