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             溺愛パレット(赤黒>黒子総受)  ※女体化注意!







        「テツヤ、僕と婚約してほしい。これは命令だ。」
        「……本気で言ってるんですか。」
        赤司はひどく真剣な表情で、誰もいない部屋の片隅まで追い詰めた黒子に告げた。
        あいにくの雨天で夕陽は見えないが、日暮れの近い時間帯。
        窓から覗く空はどんよりと厚い雲に覆われ、見下ろせる校庭の景色はすっかり薄暗い。
        「こんな事になってしまった責任を僕がとる。と言っている。」
        「お断りします。そんなことよりも元の身体に戻る方法を探してください。」
        眉をひそめた黒子に間髪入れず断られたが、赤司にはその壁を突き崩す自信があった。
        「何か間違ったことを言っているかい?ありえないね。僕はいつも正しい。」
        「赤司君は僕よりもずっと頭がいいし、それに僕のことを別に何とも思ってないはずです。
         なのにそんな事を急に言い出すのは、妙だと思います。」
        黒子の声が少し上擦っているのは、唐突に求愛を受けた動揺だけが原因ではないだろう。
        喉仏がなくなっている分、どうしたって元の声よりも高く細くなってしまう。
        声を張っているのは苛立ちからか、それとも元の声色に似せようとしているからなのか。
        どちらにしろ、己の身に振りかかった突然のアクシデントに恐怖も不安もあるだろうに、
        ちっとも女々しい部分を見せようとない黒子に感心してしまう。
        時折り戸惑いの混じる中性的な声も、何度も近くで聞いているうちに内心気に入っていた。
        「僕に合意すれば、その身体を元に戻せる可能性があると言っても?」
        「それは、どういうこと…ですか。」
        取引の言葉を聞いた黒子は驚き、向き合っていた赤司の上着の胸元を前のめりに掴みかかる。
        黒子の前髪と肩先で、フルウィッグの人工毛が揺れるのが見えた。
        他の部員たちに気付かれて騒ぎにならないよう指示した変装だったが、改めて見ても
        女性用の毛先の軽いストレートヘアに違和感がない。
        格好はジャージだったが、薄い胸の膨らみやほっそりとした腰回りもかろうじて分かる。
        紫原に冷かされたのも無理はない。一見大人しい風貌で、黒子は細身の女生徒に自然と上手く化けていた。
        しかし赤司を見上げてくる眼光は、強く凛々しい。このギャップにはひどく興味をそそられた。
        詰め寄ってきた黒子を冷静に観察して、赤司は薄く笑みを浮かべる。
        「元に戻りたいのであれば、今のテツヤに選択肢はひとつしかない。
         そして返事をもらったが最後、…少し手荒に扱わせてもらう。拒否権もない。」
        胸元に置かれていた黒子の手首を強い力で捕らえて、逆に背面へ押え付けた。
        「……さあ、僕も気の長い方じゃないんだ――――早く良い返事をもらいたいね。」
        逃げ場をなくした黒子の足元を正面から膝を入れて押さえ込めば、すっかり華奢になってしまった黒子の下半身は身動きが取れない。
        「あまりキミには逆らいたくありませんが…やめてください、赤司くん。」
        腕を押し返し抵抗された。しかし非力だ。
        「赤司、く……っ、」
        「――――残念、時間切れ。」
        黒子の声を遮り、威圧するように告げる。
        「……これから僕がすることに口出しをするな。」
        赤司は相手の顔も確認しないまま、半ば強引に口づけた。







        「……諦めるから、最後にキスして。キスしてくれなきゃ、諦めたくない。」
        赤司が黒子に詰め寄るほんの数時間前、その階段前を通りがかったのは偶然だった。

        ここ連日、雨は降り止まない。今もなお続く、一人分の足音などかき消す程に強い雨足。
        窓ガラスへ打ち付ける雨音は、朝よりも勢いを増している。
        昼休みの校舎内を黙々と一人で移動していた赤司は気づかなかった。それは向こうも同じだったらしい。
        女子のやや乱れた声色のした方をじろりと見遣れば、
        一階下の階段の踊り場には女生徒と、バスケ部員である黄瀬の姿があった。
        階下の黄瀬は通りすがりの赤司の存在に気付いて、困惑の視線を向けてくる。
        脅しをかけた女生徒の方も、視線の先の赤司の存在を知ることとなる。
        つかの間の静寂。
        「…僕に構わず、そのまま続けてくれ。」
        蒸し暑い梅雨の暗がりは不快でしかなく、色好い返事など期待できるはずもないのに。
        そんな場を愛の告白の舞台に選ぶなど馬鹿げている、と赤司には思えた。
        自分のせいで硬直してしまった場を素通りしようとした赤司より先に、他人に聞かれてしまった言葉を恥と取ったのか
        うつむいてしまった女生徒の方がいち早く階段を駆け下り、その場を走り去る。彼女の要求は叶わなかった。
        残されたのは黄瀬ひとりである。
        「……続けてくれて良かったのに。」
        「今の、そっちのクラスメイトでしょ?さすがに見られて恥ずかしかったんじゃないスか。」
        「どうでもいい。」
        色恋に浮き足立つクラスメイトの顔など赤司には端から興味がない。
        踊り場へ呼び出された黄瀬は用事を失い、階段を上がり赤司の方へ歩み寄ってくる。
        「あー…、でも正直助かったっス。断ったら、交換条件みたいになっちゃって。」
        「通りがかったのが僕でなくテツヤだったら、もっと面白い事になっていただろう。」
        「それこそマジ勘弁してほしいっスよ・・・、通りかかっても影薄すぎて俺しか気づかないし。」
        「しかもいらない気を遣って、黙って通り過ぎるに違いない……難儀なことだ。」
        鼻先で笑うような赤司の口調に、いじけた黄瀬は肩を落として答えた。
        「……そんな風に。他にはバレバレなのに、本人にまるで相手にされてないのは何でなんスか。」
        天才だらけのキセキの世代に交ざらずひとり凡庸な黒子は、極めて異質な存在である。
        赤司の経験上、並みの精神力では帝光中レギュラー陣とは同じコートでプレイできない。
        普段余興に使う卓上の駒は、木製、プラスチック製、ガラス製、様々あれど壊れはしない。
        けれど人間の駒はいともたやすく潰れてしまうのだ。
        他人の資質を羨み、己の実力を思い知って絶望し挫かれてしまう。
        誰もが嫉妬するほどの才能にあふれたレギュラー陣の合間で、埋められない実力差に叩きのめされながら
        なお立っていられる強さをもつこと。異常な才能のすぐそばにいられる才能。
        パスの中継役以外でもうひとつ、黒子の目立たない特質であると赤司は理解している。
        けして鈍感なのではない、自分の役割を知っている潔さがある。
        バスケに対してたじろぐことのない姿勢で不思議と底が知れない黒子を、
        程度の差こそあれレギュラー陣、皆が気にかけていた。
        執着をみせているのはなにも黄瀬だけではないだろうと、赤司は見通しているが口には出さない。
        試合が自分の思惑通りに動くのならば、現状問題はない。
        「さっきの子みたいに、実際に行動に移せるならどんなに良いか。」
        黄瀬は自嘲気味に呟いた。
        「…大好きだって、口だけなら何とでも言えるだろうし、たぶん黒子っちもそう思ってる。」
        黒子どころか周囲のほとんどが、黒子に対する黄瀬の言動を大げさな軽口だと思っているだろう。
        普段廊下を歩いていたって、登下校の最中にさえ、黄瀬はカメラ付携帯の餌食になっている。
        先日の学園祭で将校服を身にまとった際には、写真撮影の大行列が出来たらしい。
        本人とは関係のないところで浮いた話は絶えない。
        熱烈な女生徒も向けられるやっかみも、これまで穏便に受け流し続けている。
        そんな男がどうしてか凡庸な黒子を構いたがる。当然、本気にされるはずがない。
        「けれど実際行動に移すとなったら、そこはやっぱり黒子っちも同じ男だから
         体当たりしても嫌がられるのは当然なわけで。」
        性別だけで拒絶されるのは気に食わない、けれどそれが最大の壁だと分かっている。
        慎重に事を運びたいがあまりやり場のない気持ちを抱えた黄瀬の言葉を遮り、赤司は言った。
        「テツヤが女だったら良かったのに。」
        「え、」
        「最初から2人のどちらかの性別が逆なら、こんなにこんがらがった話じゃなかっただろう。」
        「それはそうっスけど…」
        「それともテツヤが男であることを限定しての気持ちなのか。」
        「いや、んな事ないっスよ!…たぶん。」
        黄瀬はありえない妄言に対しても真面目に思案顔だ。
        「でももし仮に女の子だったとしても、黒子っちには敵わない気がする・・・。」

        観念したような黄瀬の呟きの直後に、午後の予鈴が鳴る。
        「・・・・・・あ、」
        それは赤司が人知れずあげた乾いた声と重なった。黄瀬は赤司の声には気づかないまま。
        「さっきの、黒子っちには内緒っスからね。」
        女生徒から受けていた告白に浮き足立った様子もなく、階段前から歩き去っていく。

        そのまま別れて教室へ戻ろうと数歩進んでから瞬時、赤司は自らの過ちを体感することとなった。
        モノクロの世界。
        赤司の目に映るものが一瞬にして色相を無くし、冷たい無彩色になっていく。
        夜の帳が下りるように静然と、景色は色を失う。
        突然襲いかかる色覚異常に対し赤司はただ一人、沈黙したまま受け止めるしかできない。
        もはや訂正はきかない。

        360度辺りを見回せば全ての物が一瞬のうちに、屋外の雲と同じ灰色になっていた。
        校舎の壁も、廊下の掲示板も、階段のてすりも、白に近い部分もある、黒に近い箇所もある。
        赤や青といった彩りはない。それぞれの違いは濃淡だけだ。
        突如現れたモノクロ写真のような風景のなかで、赤司は静かに右手をかざして眺める。
        最初から白い制服はすすけている以外さほど変わっていないが、袖口から覗く水色シャツは灰色、手の甲も灰色。
        身に付けているもの、自分の身体すら全てが白黒のはざま、灰色の世界。

        先ほどと変わらないのは、薄暗い廊下に響く雨音だけだった。
        「……さて、どうするか。」
        独り言ちた赤司はモノクロの校舎を見渡し、一切の色味が失われていることを確認してから
        ひとまず次の授業が行われる美術室へ向かうことにした。